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チラシと稲見さん
元「演劇ユニット巨乳の彼女を創る」(2021年解散)主宰の葛生大雅氏
対談が、したいな
「とにかく対談をしたい」
一点張りの稲見さん。
そして、ただ対談をしたいから対談をするという、対談のための対談ともいえる対談が対談として実現したのだった。
人生初の(そしておそらく最後かもしれない)対談が決まり、急に緊張する稲見さん
公演の「出演者オーディション」(〆切済)
しかし、オーディション(開催する側)など初めての稲見さん。
オーディション(受けるほう)はこれまで数限りなく受けまくってきたが、開催する側となると、どんな心持ちで臨んだらいいのか。
そして、「オーディションをやらせていただく。審査をさせていただく。無名の自分が。ああ、なんかすいません」というプレッシャーがとにかくすごい。
〆切ってだいぶ経ったが、まだ「CoRich舞台芸術!」で人気テーマに上がっているオーディション情報
その上、変な日程調整をしてしまい、この対談のあと急いで移動してオーディション(開催する側)をしに行く、という謎スケジュールに見舞われた稲見さん。
ただでさえ、初めての対談というものを前にソワソワの極みに達しているのだが、このあとに、もっとハイプレッシャーな「オーディション(開催する側)」が控えているという、完全に追い詰まった状況での対談となった。
この対談どうなる。なお両者、完全に初対面である。
この公演を成功に導くため、2021年末頃~現在までかけて、あちこちにチラシを撒き続けてきた稲見さん。
「2022年夏に、こういうのやります」
まったく面識のない劇団に連絡して、公演のパンフレットにチラシを挟み込んだり、知らない人に直接手渡したり、稲見さんはこの半年以上に渡り、地道な宣伝活動(チラシを撒く)に取り組んできたのだった。
その途中途中で稲見さんは、出会った人たちから、気になる話を聞いた。しかも複数件聞いた。
「演劇で彼女を作る」ってもう、それ、すでにやってる(やってた?)、先人がいるらしい。
元「演劇ユニット巨乳の彼女を創る」(2021年解散)主宰の葛生大雅(くずうたいが)氏である。
「対談が、したいな」
稲見さんの口からその言葉が出るや、すぐにスタッフは動いた。
その対談、企画しましょう。
しかし。
「対談が、したいな」
特に何を喋りたいとかはなく、ただ、対談をしたい。対談をしてみたい。対談というものをしてみたいですね。
それしか言わぬ稲見さんに、さてどうしたものか、と困り始めるスタッフ。
フットワーク軽く、なんでもすぐに行動を起こせるタイプの稲見さんだが、そのフットワークの軽さはときに思考の軽さと直結しており、思いつきでなにかやり始めたはよいものの、やってる途中で「あれ、おれ、なんでこれをやってるんだ?」となったが最後、「なにか特段の考えがあってそもそも行動を開始したわけではない」という事実が判明し、もうどこにもたどり着けないし戻ってもこれない、というパターンに陥ることは多い稲見さん。
「対談が、したいな」
どんな対談をしましょう!
「まあ、なにか、おもしろいことを話したり。とにかく対談が、したいな」
内容は、どんなふうでいきましょうか。
「まあ…、ただ喋る感じで…」
人と人がただ喋るのは…、それは雑談です!
「初対面だけど、話しやすい感じの方だったら、エロい話などもして距離を縮めたいな」
それは、猥談です!
「1対1だと緊張するから、他にも誰か喋りたい人がいたら呼んで、楽しく喋れればいいかな」
それは、歓談です!
「ええ…。じゃあ、二人きりで話すの? それは、おれも、喋りが固くなってしまいそうだな。…ごめんなさい、対談って、なんですか?」
ちゃんとテーマ等あってトークするのがたぶん、対談です!
「あっそうだおれ、演劇の、上演が終わったあとで、演出家とかゲストが、椅子とペットボトルの水持ってのこのこ出てきて蛇足を喋るやつあるじゃないですか。あれ好きなんだよね。あれみたいな感じかな?」
それは、アフタートークですね。
「でも自分の公演であれをやりたいとは、思わないな。やりたいことは作品で全部やったんで、他に特に喋ることないです。っていう姿勢でいたいね」
それはじゃあもう稲見さん、対談とか、しないほうがいいかもです!
「でも…対談が、したいな」
演劇を10年やっているわりに、演劇界隈の友だちや知り合いがぜんぜん居ない(人間関係のつき合い自体があまり多いタイプではない)稲見さんだが、「知り合いの知り合いの知り合いは知り合い」の原則によって、わずかな演劇の知り合いのつてを辿ったところ、あっけなく葛生氏とつながり、対談はセッティングされた。
しかし問題が発生。
公演の出演者として、稲見さんは「稲見さんの旧知の、信頼する俳優数名(というか稲見さんと繋がりのある俳優ほぼ全員)」にオファーをかけ、快諾をもらったり都合により断られたりした結果、キャストはだいたい決まっていたのだが、でも…。知らない人も幾人かいたほうが、作品づくりも稽古も、そして本番も、新鮮で良いのではないか。
自分にとっての、「新しい人」にも座組に加わってほしい。そうして、出演者オーディションの開催に踏み切った稲見さん。
稲見 完全に初対面ですよね。
葛生 ぼくは「宇宙論☆講座」(稲見の所属するユニット)、何回か観ていて…
稲見 本当ですか。
葛生 2回観てます。ただ、宇宙論☆講座、ぼく過去2回観ているんですけど、2回とも割と自分がヘロヘロの状態で…
稲見 ええ笑!
葛生 ヘロヘロの状態で観に行っているので、途中からもうヘロヘロになって…
稲見 宇宙論☆講座は、体力奪われる感じの劇だから。ヘロヘロなときに観たら、よりヘロヘロになると思いますよ。
葛生 なので、ぼくは、稲見さんを見たことはあるんですけれども。
左・葛生大雅氏。右・稲見さん
――――稲見さんは、葛生さんのことは?
稲見 ないですね。(葛生さんの)お声もお顔も、見覚えはない。今日はこのような機会をありがとうございます。
葛生 どういった流れでこうなったのかも分からず…笑、今日ぼくはここに来ています。よろしくお願いします。
稲見 実は、今度初めて、自分の公演をやるんですね。それで…、あっしまった、チラシを忘れた! チラシ見せて説明しようと思ってたんだけど…。チラシに、この公演の意味合いみたいなのは全部載ってるので。これは…、しまったな。
公演のチラシはこれ
チラシを忘れた稲見さん
葛生 (公演のことは)一応、調べてきました。…調べてきたというよりは、たまたま昨日、誰かとモノポリーやりたいなと思って、友だちに声をかけていたら、その返事として「お前これ応募しろよ(笑)」って返ってきたのが、この公演のオーディション情報のURLで。
稲見 ええ!
葛生 それ明日おれ、対談やるやつだ!ってなって。
稲見 ネタとして回ってきたんですか…笑
葛生 ネタとして回ってきてました…
この公演のオーディション情報(2022年6月に実施)のURL
https://stage.corich.jp/bbs/100292
稲見 実はいま、そのオーディションの真っ最中で。
葛生 なんかすげえや…
稲見 それはそれとして、葛生さんに対談をお願いしたのは、あの、噂で…、演劇で彼女ができた人がいるよと聞いて。
葛生 あっ、演劇で彼女ができたわけでは、ないんです(キッパリ)
稲見 あれ。そうじゃないんですか…
葛生 ぼくは、「演劇ユニット巨乳の彼女を創る」という団体をやっていて。もともと3人編成でやっていたんですけどね、高校時代に。一番最初のメンバーがみんな演劇部で。
稲見 ほう。
葛生 高校演劇部で共学だと、割と女子社会だから。もう抑圧されてて。…なんか男たちだけで、おもろいもの、やりたいぜ。というところから立ち上がった団体なんです。そのとき(結成時)は全員、彼女いなくて。
稲見 それで、そこから彼女を作るために奮闘が…
葛生 いや、でも、ぼくだけ、いたんです彼女!
稲見 ええ!いたんですか(話が違う!)
葛生 けど、ほどなくして、団体を始めた直後に、ぼくは、振られるっていう…
稲見 うおお…
葛生 それから、最初にリーダーだったやつが、そのあと、彼女できた、つって辞めて。
稲見 彼女できたら、辞める…
葛生 その次にリーダーになったやつも、彼女ができちゃって、辞められちゃって。ぼくは一番初めに彼女いたはずなのに、彼女いなくなって。そして(なし崩しで)リーダーをやらされ…。もともとリーダーじゃなかったんですけど、みんな辞めてっちゃったから。ぼくは脚本も書けるし、じゃあ、リーダーとしてやっていくか…と。それで、第1回と第2回の公演は、割とちゃんと演劇をしてたんですけど、第2回の公演のあとで、女の子から「演劇ユニット巨乳の彼女を創る」っていう団体の名前で、こういう真剣な演劇やっているのはどうかな…。って言われて。
稲見 それはまあ、ねえ。
葛生 ああ、じゃあやめましょう…。ってなって、第3回からはパンイチ(パンツ一丁)で演劇をやるというスタイルに。もともとパンイチはやってたんですけど、(作品を通して)完全にパンイチ、ってしたのは第3回から。
稲見 作風とか、内容的には…
葛生 完璧にコメディです。ぼくが作るやつは、もうコメディで。それで最後になにか、いい感じのことを言って締めくくるという…。友だちには、「説法スタイル」「釈迦スタイル」とか呼ばれまして。最後に「諭し」みたいなのがある演劇スタイル。
稲見 団体名はどうやってつけたんですか?
葛生 それがまた、ヒドい理由なので…
稲見 ほう、ヒドい理由。
葛生 団体名「陥没乳首」にしようと思ってて、最初。
稲見 陥没乳首。
葛生 でも、陥没乳首は嫌だというやつがいて…。おれは陥没乳首が嫌いだ!ってやつがいたので、じゃあ別のにしようって。
稲見 うん。団体名は大事ですよ。
葛生 また別のやつが、高校の教師に言われた「まず目標がある。それに対して、あともうちょっとだけ高い目標を設定することによって、人はもっと上にいけるんだ」みたいな言葉に感化されて。彼女を作る、だけではなくて、巨乳の彼女を作る、っていう目標を立てた。っていうところから自分の団体は始まったんですよね。
稲見 ハードルはやや高めに設定する。
葛生 そしてそのハードルを越えていく人もいれば、越えていかない人もいる。そこはもう人それぞれなので。そもそも、みんながみんな、巨乳が好きだというわけではないし。
稲見 で、去年解散されたということで。
葛生 「解散報告会」というのをユーチューブでやりました。ほんとは、解散公演をやりたかったんですけど。客席に殴り込んでいったりとか、男たちで抱き合って飛沫とばすような演劇なんで、あんまり…コロナ禍でやりづらいなってなって、映像配信でなんかできることないかなって。マジメふうな解散会見をするふりして、上裸で暴れ続けるみたいなことをやった。っていう。
稲見 結局のところ…笑
葛生 スパチャ投げてほしかったんですけど、登録者1000人までいかなかったので(スパチャの起動はできず)。いつかまたやりたいなという気持ちはありますけど、2度目の解散報告会。でも今、ちょっと、なにかやろうとしているんですよ。これから。
稲見 応援したいですね。
人づてに送った対談の依頼
ネット弁慶なところがある稲見さん。人づてに送った対談の依頼の饒舌さに反し、話し始めると口数は少ない。しかし文章になれば滑らかに喋っているように見えるという、これが読み物としての「対談」の不思議(そういう清水義範の小説ありましたね)
稲見 ところで葛生さんは、彼女とはどこで。劇団と関係ないところで?
葛生 そうですね。劇団は劇団として、それとは別で、みんなで彼女作っていこう、恋愛活動をしていこう、という気持ちで日々を生きていたんで。演劇の公演やることによってモテようというよりは、普段の生活をしっかりやっていこうという。それで彼女を作ろう、みたいな。
稲見 ああ。ちゃんとしている…。葛生さんの彼女、どういう方なのか、ちらっと聞いてもいいですか。
葛生 大学の同級生です。一緒に遊びに行ったりとかは、以前からずっとしてて。それまでおれは、演劇をやりながらフラフラ生きていたんですけど、コロナ禍になって。あんまり人と会わなくなって。好きな人とだけじっくり会うようになって。そしたら、なんか付き合うことになって。みたいな。
稲見 コロナ禍の恋愛事情。
葛生 演劇とか、もう一気に仕事がなくなってヒマになって、よく会うようになって距離が縮まったといいますか。
稲見 どこで告白とかしたんですか。
葛生 彼女の家ですね。
稲見 なんて言って。
葛生 (高い声で)つきあっちゃいます~?? って感じで。
稲見 リアクションは。
葛生 そうしますか~って。
稲見 良いですね。
ほっこりする話を聞き、だんだんほぐれてきた稲見さん。ときおり笑顔を見せる余裕もある。あとなぜか対談の会場がグリーンバックだったので、意味なく背景を抜かれた稲見さん。以降、異世界でやってる対談のつもりでお読みください
葛生 稲見さんは、今まで彼女は。
稲見 5、6人…
葛生 いたわけですね。
稲見 今はもう4年。オリンピックできるくらいの期間、いない。
「4年」というワードから、安易な連想で「オリンピック」など口をついて出る稲見さん。対談相手の葛生氏とは打ち解けてきたが、そのぶん「対談に緊張している自分に緊張している」という特殊な緊張のしかたのフェーズに入っている
葛生 ぼくも、今の彼女の前は5年いませんでしたね。高校の時にちょろっと付き合っただけで。高校まで17年間彼女いなくて、高校で2年だけ彼女いた時期があって、そこから5年彼女がいなかった。そういう人生でした。
稲見 彼女作るために努力とかは。
葛生 あんま、しなかったです。高校のときは、おしゃれしてみたりとか色々やってみたんですけど、いろいろ考えた結果、なにもしないが一番いいっていう…
稲見 無理せず自分らしくいるのを、受け入れてくれる人が現れる。それを待つ、と。
葛生 なかなか難しいっすけど、そういう人がいないわけはないから。結局どんなに努力したって、どこかでボロが出るし…。できるだけお互い努力をしないっていう、そういう出会いを探し求めた結果の今です。無理をしないという境地。無理すると、あとが大変。ぼくは背伸びしがちなので。ボロが出やすいんです。
稲見 いま、つきあってどのくらいです?
葛生 もうちょいで、2年くらい。
稲見 デートとかどこらへんに。
葛生 家の近くをぶらぶら歩いたりとか、あとは年に数回旅行とか。飛騨とか伊香保とか、温泉地へ。
なんか、ぐいぐい「聞くモード」になってきた稲見さん。そして話の内容が核心を突き始めた
稲見 話は変わるんですけど、演劇でモテるって可能だと思いますか。
葛生 演劇でモテる…。可能だと思いますよ。
稲見 まず、もともとモテてるやつが演劇をやって、よりモテるというパターンはあるでしょうね。
葛生 ただね、こればっかりは難しいですよね。「演劇でモテたい」を全力で出しちゃうと…。っていうところがある。逆に(心のバリア)防御されちゃう。だからむしろ、ぼくたちは、「演劇でモテたい」は、公演ではできるだけ隠すようにしてたんで。
稲見 ははあ、なるほど。
葛生 モテたいけどね!モテたいけど、それは言わないけどね!って。
稲見 すごい参考になるな。
葛生 そもそも稲見さん、いま、好きな人はいるんですか?
稲見 それが、いなくて(現在、公演2ヶ月前)
葛生 それは問題だな! 好きな人ができりゃ、いくらでも可能性は出てきますけれども。
稲見 具体的な相手が現れたら、傾向と対策の練りようもあるんだけど。
葛生 いない。ってなると、まず人を好きになるところから始めないと、どうにもこうにも!
稲見 そうですね。おれ…、すぐ惚れてしまう。惚れやすいところはあるんですけどね。
葛生 うーん…
稲見 さらに話変わりますけど、音楽ってモテますよね。
葛生 (食い気味に)あ、モテますね。
稲見 演劇に比べたら音楽のほうがモテるのかな。まあ、そりゃそうか…。おれは今、ギターをやっているんですけど。楽器って、めっちゃ上手かったら、うお~スゲー!ってなるけど、やっぱ、上手くないとどうにもならない…。楽器って技術が見えやすいから、上手いと、その上手さが、すごさとしてすぐ伝わるんですよね。
葛生 演劇は自分の肉体でしかないから…
稲見 肉体しか使わないようなことでも、なにかパッと瞬間でそのすごさが伝わる、つまり特技みたいなものがあればまた、ちょっと違うのだろうな…。葛生さん、なにか特技とかありますか。
葛生 でかい声が出せることかな。ほかには無いっすかねえ、あとはシラフでは言えないようなことかな…
稲見 一発芸とかは、どうです?
葛生 うちの団体みんな基本、一発芸するんですけど、ぼくだけ一発芸、嫌いなんですよ。もうそれは、ト書きに書くんですけど。「一発芸をやる」とか。でも自分は絶対やりたくないんで、自分だけはそれは逃(のが)れる。
稲見 ずるい!
葛生 稲見さんは、特技はじゃあ、ギターですか。
稲見 でも、ギターはまだ1年めくらいです。もう3年くらいやってるんですけど、まったく全然できないんで、1年めくらいって言ってます。
葛生 ずるいですね…
稲見 楽器って、弾けるとかっこいいけど。「手を出した(楽器買った)けど弾けない」ってのは、「まだ手を出してない」より、分が悪いから。でもまあ1年めならしょうがないねってなりますから。3年めでこれ??ってなるのはちょっと…、耐えられない。
葛生 それだったら、10年やってます。って言いながら全然弾けないとかのほうがおもしろくないですか!
稲見 その境地を目指そうかな。
葛生 部活とか何でした?
稲見 中学は弓道部だったんですけど、足が速かったから陸上部に借り出されたり。あと高校は野球ですね。
葛生 で、なんで演劇に…
稲見 演劇始めたのは遅くて、社会人を経験してからなんですけど。九州でライオンキング観て。
葛生 ライオンキング?!
逆に聞き役となって、稲見さんのこともいろいろ聞いてくれる葛生氏
稲見 ライオンキング、「これで最後。もうやんないよ」みたいな触れ込みで、ポスターで宣伝してて…、でも今も普通に上演やってるじゃないですか。あれ何だったんだろう。騙された感あるな。
葛生 それ観てすげえってなって…
稲見 それで、上京して。
葛生 そのアクティブさがあれば絶対、彼女できますよ!
稲見 それがなかなか…
葛生 余裕で、できちゃうと思いますけど!
稲見 いろいろあるじゃないですか、マッチングアプリとか。コロナ前だったら街コンとか。
葛生 マッチングアプリ使ってるんですか。
稲見 やったんですよ。でも全然できなくて。会ったりしたことはあるんですけど、人間が合わなくて。
葛生 そういうものかもしれないですね。どっちもどっちで、たぶん、どこかで見得張っちゃってるとこもあるから。
稲見 だから、それは疲れちゃって。
葛生 だからこうやって…
稲見 こうやって演劇の力で、こういう公演やって、なんとか…、って。
葛生 すごいな。
稲見 さっきの、音楽と演劇の、モテの違いの話ですけど、音楽のライブやフェスって、照明かっこいいじゃないですか。派手だし。楽器ができてかっこいい、っていうことのほかに、ああいう、人間がそこにいるだけで神々しいみたいな、人間の肉体の有機性と関係ない、テクノロジーの力というか機材の力ってのが、かっこよさに転化されるところがあって。照明効果とかってのも強力だなと。そこにまた、音楽は分がありますよね。でも、ああいうのは、人間を照らすための明かりじゃなくて、場の空気を高揚させるための明かりだから。地明り(演劇で舞台全体をフラットに見せるための基本の照明)を作るとか、そういう概念ではなくて。でもそういったテクノロジーの力とか機材の力で、場の空気を高揚させることっていうのは仕組みとして、できますからね。こういうコンセプトで公演をやるからには、演劇の照明じゃない、音楽の照明の考え方を取り入れたほうがいい。それは間違いない。っていうのを、照明スタッフさんとも、いま話してるとこなんですけど。
葛生 音楽でいうと、やっぱり楽器がうまいとか、一発で分かるじゃないですか。練習しなきゃこういうふうにはなれないな!とか。普通とは違うな!みたいな。そこからモテっていうのは移行しすい。演劇はその点、ウソですからね。演じる行為をしてる以上は、本物のことをやってるけど、ウソじゃないですか、存在として。演じてるって行為が発生した時点で、微妙なウソが存在するから、そこが難しいところですよね。「私はこの人が好きなんだ」じゃなくて「演じてるこの人(キャラクター)が好きなんだ」と思われてしまったら。キャラクター(役人物)としては好きだけど、人間としては愛せない、みたいな。だから逆にいうと、(作品の作りとして)人間を愛してくれる作りにしてくれれば…。いけるような気がしますけどね。
稲見 本人が本人役として登場するような。
葛生 そう。でも、ずるいっすけどね。「本人が本人役として出てきて、でも(本当は)そういう本人じゃなかったとき」が一番ガッカリしますからね。
稲見 今の話、すごい良いヒントな気がする。「稲見和人に彼女ができる公演」に取り入れたいな。
葛生 本人が本当に本人役として出てくるドキュンメンタリー性のある演劇だったらいいんじゃないですかね。どんなに下手でもいいですからね、演劇なんていうものは。「それが味だ」って言われてしまったらもう(何も言えない)。上手い下手じゃないですもん。ただ、技術というものを感じる要素が、音楽に比べると分かりにくい。だから例えば…、過酷な瞬間とかが劇中にあれば。
稲見 過酷な状況を作る…
葛生 そうですね。これはちょっと、真似できないや、みたいな過酷なこと。「これはできないよ!」ってお客さんに思わせる。「もういいよ!」ってお客さんに言わせる。それは技術というより覚悟みたいな。
稲見 うんうん。
葛生 でも稲見さん、弓道部で陸上部で野球部だったら、わりと過酷な状況には耐久性あるんじゃないですか。そして劇団四季に憧れて演劇に入ってきているってことは…、それなりにやっぱ、自分の体を鍛えて、ああいうパフォーマンスをしたいと思ってるわけじゃないですか。
稲見 はい。
葛生 あそこらへんまでやろうとして、結果、できてもいいしできなくてもいいし。っていう…。「できない瞬間」がやっぱ一番人間だから。まあ、それで、ほんとに潰れちゃダメだから、潰れるか潰れないかギリギリのところを攻めつつ…
稲見 「もういいよ!」ってお客さんに言わせるっていう。それはひとつ、活路としてあるかもしれないですね。さっきの高校の先生の話の、ちょっと上のハードルの考え方ですね。
葛生 ぼくは、そういう演劇が好きだ。ってだけなんですけどね。テクよりも、おれの本物見てくれや、っていう。
稲見 そういえば、こないだ宇宙論☆講座で、そんなシーンありました(2021年上演「ミュージカルうなぎ」)。布団を敷いて寝るというシーンなんですけど、舞台の床にそのまま寝たら客席から見づらいから、人間の体や物の配置を90度転回させて、壁を背にして布団を持って立ってることで、布団で寝ていることを表現する。その布団に寝てる人に近づくためには、壁に足をつけて、壁に立って歩かないといけない。つまり壁面を床面として使う。だからこの場合、重力は床方向じゃなくて、壁に向かって発生していることになる。
葛生 宇宙論☆講座は、そういうシーンがちょこちょこ見られるのが、自分の団体に近しいものを感じるなとは思います。
稲見 こういうのやったんですよ(図を参照)
葛生 クソ地獄すぎる。
稲見さんの説明を、説明した図
稲見 これを32回やれって台本に書いてあって。壁を歩いて32回登場して32回退場して、って。32回ってのは、なんか音楽的に気持ち良い繰り返しの回数とかなんとか…。なんか分からない理屈を言われて。
葛生 仮装大賞じゃないですか。
稲見 人力で重力を操るやつ…。なんかそういう、仮装大賞の出し物のジャンルありますよね、3D系の。人力で重力を操る系の、仮装大賞で大賞とる感じの…
葛生 おなじみの…
稲見 そういう無理が、いっぱいあって。
葛生 そういうのが一番おもしろいすから。ヒドいけど。
稲見 人道とはなにかみたいな。
葛生 全員おもしろいと思ってやれるんだったら、それ幸せですよね。
稲見 いや、本当にそれは。
葛生 これ何がおもしろいんだと思った瞬間、おしまいですからね。だから観てる側をシラフに戻させないとか、そこには工夫が必要ですよね。常に酩酊状態でやるってのが一番いいですから、演劇の状態としては。
図の続き
舞台写真
稲見 グミ3個食わせたら終わりだってことになってるんですよ。流れとしては。で、台本には3個食わせるな、って指示が書いてある。
葛生 ヒドい話ですね!
稲見 それを食うことになっているのが、五十部さん(宇宙論☆講座の代表)の子どもで、5才児で。
葛生 ヒドい話だ!
稲見 意地悪でやってるわけじゃないから、台本に書いてあるから。
葛生 お子さんより、(その葛藤にさいなまれる)稲見さんが一番かわいそうじゃないですか。
稲見 回によっては、5才児がすぐ食べちゃって、もうどうしようもなくて、…クリアー!!!ってなってました。
葛生 おれも五十部さんも、そういうとこあるんですよきっと。台本にはそう書いてあるけど、本番ではそれができない、っていうおもしろさがあるみたいなところがあるんだと思う。
稲見 確かに、「これ、できないでほしい」って思いながら書くト書きとかあるって言ってた、五十部さん。
葛生 「突然風が吹いてきて、その男を飛ばす」みたいなト書き、書くんですよ、ぼくも。「劇場が爆発する」みたいなのとか。でも劇場は爆発できないし、風も吹いてこない。それは台本を買わないと分からないおもしろさになってしまうところはあるけど。前に、ト書きに友だちの電話番号を書いてうっかり台本を販売しちゃったことがあって。住所とかも書いて載せたまま、伏せ字にせずそのまま売ってしまいまして。だからその台本を手にした人は、その情報でアマゾンでなにか欲しいものとか買えちゃうんですよ。住所と名前と電話番号分かっちゃうから。本当に彼には申し訳ないことをしたな、と。
稲見 台本て、(物販で)売れるときは売れますからね、すごく。…おれも、この公演の、いま台本作ってるところなんですけど、めちゃめちゃ内容量を、盛り込みまくっています。それはサービス精神でというより、やりたいことがすごく、たくさんあって。もう、おれをすべて台本に込めようみたいな台本を作っているんですよ。
葛生 そのへんひっくるめて、稲見さんのいいところが出る公演になったら。それで稲見さんに彼女ができる公演になったらいいですよね。
稲見 なんか、まとめようとしている(対談を)?
葛生 いや!そんな。
稲見 あっそうだ、対談のお礼というか、プレゼントを持ってきました。
葛生 えっ。なんですか。
稲見 (カバンからなにか取り出し)巨乳…おっぱいと、すっぱい、をかけまして…
葛生 あっ…、ありがとうございます…(食べる)
稲見さんの持参したプレゼント
贈呈
稲見 あと、セブンルールってありますか?
葛生 セブンルール?
稲見 自分の中の、7つのルールですね
流れと関係なく、考えてきた質問をただもう1つずつ聞くのターンに入った、小学生記者の稲見さん
葛生 えーと、(一個ずつ考えながら)「できるだけ人は傷つけない」
稲見 はい。
葛生 「日本酒を4合以上呑んだら自分の言動には気をつける」。それが自分の、酒量の境界線だという自覚があるので。
稲見 ふむふむ…
葛生 あとは(もうパッと出ないんで)ひねり出していいですか、ひねり出します。「夜10時までに今日帰るか帰らないかを、親に連絡する」。実家なんで…
稲見 これで3つですね。
葛生 「焼きそばは水は少なめにする」。手を水で濡らして、ぱっと弾(はじ)くだけでいい。
稲見 4つ。
葛生 (真剣に困り)んー。もう、ないな…。あ、「本番前には銭湯に行く」
稲見 銭湯?
葛生 演劇の稽古で、本番までは、演出家に言われたこととか、しっかりとルールを守ってやっていかないといけないけど、本番始まったらもうルールなんて(ある意味)関係ないじゃないですか。その場で事件は起きるじゃないですか。突然、照明がつかなくなったりする、みたいなことがなんでも起きる。その瞬間に備えて、もう全部あきらめて、明日から新鮮な気持ちでやってくぞ、っていうための銭湯。だからまあ、やることはやったから!っていう状態になるために、「本番前には銭湯にいく」ですね。…もう、ないです。稲見さんは、あるんですか、セブンルール。
稲見 「朝起きたら、うがいをする」
葛生 はい。
稲見 それくらいかな。1つしかなかった。…おれも、ひねり出します
ここまでけっこういい感じに(内容が有る感じで)進んでいたが、急にいきなり雲行きが怪しく(内容が無い感じに)なってきた対談
葛生 そんな、無理に出さなくても。
稲見 セブンルールってのは、みんな無理に出すものなんですよ。
葛生 そうなんだ…
稲見 あと、「映画館では真ん中あたりの席には座らない」。途中で出入りしづらいから。るろうに剣心の公開初日にトイレに立って、戻れずに後悔したんです。…あっ、そろそろ時間なんで、対談を終わりましょう。それじゃあ、このあとおれ、オーディション(開催する側)があるので。
いきなり急に、秒で、帰り支度を始める稲見さん。
――――もう録れ高、充分です!そろそろ、そのへんで!
ありがとうございました。
対談のお相手:
葛生大雅(くずうたいが)
東京都出身 俳優・脚本家・演出家
マチルダアパルトマン所属
元「演劇ユニット巨乳の彼女を創る」主宰
構成/五十部裕明
写真/飯田炒飯
対談セッティング協力/平井寛人
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